風光る丘
小沼丹
物語は、フランス語の授業中に机にうつぶしてイビキをかいている広瀬小二郎の姿から始まる。やがて広瀬は友人・杉野正人からある女性の東京案内を頼まれる。「妙齢の美人かもしれないぜ…」。軽快な語り口でキャンパス・ドラマの幕が開く。広瀬、杉野、石橋渡、洞口謙介の大学生四人組は、一台のおんぼろ車を後生大事に運転する“ガラ・クラブ”の仲間でもある。このぼろ車で夏休みはどこへ行こう?まずはベラミに集合せよ。ロード・ノヴェルも快調に走り出す。舞台は大学のキャンパスから信州の善光寺へ、さらに蓼科の高原へと展開する。天下無類の山野百合子女史、豪放磊落なベラフォンテ和尚、謎の美女吉野玲子と、多彩なキャラクターも登場…。爽やかな筆致のうちに、健康で明朗な学生たちの姿をいきいきと描いた、小沼丹異色の青春ユーモア小説「風光る丘」九百余枚。「懐中時計」刊行一年前に上梓されながら、作品集・全集に未収録の幻の長篇、四十年ぶりの復刊。