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百年泥

石井遊佳

私はチェンナイ生活三か月半にして、百年に一度の洪水に遭遇した。橋の下に逆巻く川の流れの泥から百年の記憶が蘇る! かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。流れゆくのは――あったかもしれない人生、群れみだれる人びと……。

石井遊佳

石井 遊佳(いしい ゆうか、1963年11月 - )は日本の小説家、日本語教師。インド・タミル・ナードゥ州チェンナイ在住。 == 略歴 == 大阪府枚方市出身。 大阪府立大手前高等学校、早稲田大学法学部卒業。その後、東京大学文学部インド哲学仏教学専修課程に学士編入。更に、同大学院人文社会系研究科博士後期課程に進み、満期退学(専門は中国仏教)。元「海燕」編集長の根本昌夫の小説教室に通う。 2015年から東大で知り合ったサンスクリット語研究者の夫(石井裕)と共にチェンナイのIT企業で日本語教師として働く。